ちぐはぐパッチワーク

スローで楽しい日々の暮らし。

生きている服を作る

30代後半くらいから、服を買うのが億劫になってきた。おしゃれが面倒になったというわけではない。自分に合った服を探すことに、ほとほと疲れてしまったのだと思う。私に合う服はどこで売っているのだろう。探しても探しても見つからない。

 

 

私は身長145cmで、サイズに関しては元々探すのが大変だった。Sサイズ表記のものでも大抵大きい。若い頃はぶかぶかでもそれなりに着こなせていたけれど、オバサンがそれをやると痛々しいというか、ただのだらしない人に見えてしまう。いかんいかん。もうサイズは自分に合ったものじゃないとダメだ。

 

 

既製服で自分にぴったりのものを探すのは相当骨が折れる。というか、いまだかつて出会ったことがない。サイズを取るかデザインを取るか。最終的には必ずどちらかで妥協して服を買っていた。わざわざお金を出して買っているのだから、そこそこに好きな服ではある。でも、本当にお気に入りの服は?と訊かれても、一着も思い当たらない。持っていないような気がする。今まで自分を誤魔化し続けて、もういい加減くたびれてしまった。

 

 

そんな時に、たまたま手に取ったのがこの本。これから服とどう向き合っていけばいいのか。なにかヒントが書かれていないかなと思って読んでみた。

 

『服のはなし 着たり、縫ったり、考えたり』 - 岩波書店

 

 

著者の行司さんは新聞記者をしている。仕事で行き詰まったある日、気分転換にヘアメイクを変えたらそれまで着ていた服が似合わなくなってしまった。幼い頃から「まわりと同じ格好をしない」というおしゃれの心得をお母さんから教わっていたことを思い出し、ふと自分のための服作りを始める。
 
 
この服作りをきっかけに、その後はお母さんや友人知人にも服を作っていくことになり、仕事でも服にまつわる記事を書いたり、服とは何なのかについてあれこれ考えるようになる。行司さん自身の服への想い、悩みや葛藤が綴られるとともに、取材を通じて明るみになる社会問題、様々な人たちが語る服との関わり方や思想について書き記されたルポルタージュ的な要素もあって、とても読みごたえがあった。
 
 
この本を読み終えた時、私も行司さんのように「生きている服」を作りたいと思った。本の中では行司さんの作られた服の写真がいくつか掲載されていて、どれも不思議な魅力があり惹きつけられた。ぱっと見ただけで強い想いを感じる。服にも生命力があって、着る人はそれに呼応して元気をもらっている。そんな印象を受けた。これは着る人のことを想って作った服だからこそ滲み出てくるものなんじゃないかと思う。誰が着るか分からずに大量生産されている服からは、生命力を感じられない。
 
 
実は私も、自分のための服作りに挑戦してみたことがあった。自分で作ればサイズもデザインも思いのままで、これで問題は解決すると思ったからだ。自分サイズにパターンを引いて、シーチングで作ったサンプルを試着する。サイズはちょうどいい。だけど何かしっくりこない。全くときめかない。デザインの問題なのかもしれないけど、何をどうすればいいのか分からなくなってしまって、結局服を完成させることはなかった。
 
 
今思えば、服を作らなくてはいけないという義務感とプレッシャーが膨らみすぎて、肝心の「服を楽しみたい」という気持ちが置いてけぼりになっていたのが失敗の原因だったように思う。あの時は早くこの悩みから解放されたい一心で余裕がなかった。私にはこういう変にせっかちな部分がある。義務感で作った服にときめかないのは当たり前だったのだ。
 
 
でもこの本を読んで分かった。服を作る私、服を着る私、どちらも大切にしよう。焦らずゆっくり時間をかけて、自分がそれを着る姿、笑顔になった自分を想像する。それがイメージできれば、作ることもきっと楽しめるはずだ。肩の力を抜いて、あらためてデザインを考える。未来の自分はどんな服をよろこんでくれるのか。考え始めると今度は自然と楽しい気分になっていた。
 
 
作る私と着る私、どちらにもやさしいダボパンツを作ることにした。初心者向けの簡単なパターンで作る私にやさしく、ゆったり楽ちんなシルエットで着る私にもやさしい。生地は肌触りと風合いを重視して、ちょっと質のいいリネンを選んだ。採寸してパターンを引く。リネンに水通しをして丁寧に地の目を整える。ミシンで縫う。ひとつひとつの工程がとても楽しく、貪欲に服を作っていた学生の頃を思い出した。
 
 
ダボパンツは無事完成した。私らしいシルエットで丈もぴったり。奮発していい生地を使ったおかげで初めて着るのにこなれ感があり、肌触りもふっくらやわらかで快適だ。これは最高じゃないか。思わず笑顔になる。生き生きとした表情の私がそこにいた。ああ、この服を作れてよかったな。お気に入りの服が、私にもやっとできた。